逆流性食道炎
逆流性食道炎
胃食道逆流症は、主に胃のなかの胃液(胃酸)が食道へ逆流することにより、胸やけや呑酸などの不快な自覚症状を感じたり、食道の粘膜がただれたり(食道炎)する病気です。
胃食道逆流症には、①食道炎(食道粘膜のただれ)がなく自覚症状のみがあるタイプ(非びらん性逆流症)、②食道炎があり、なおかつ自覚症状があるタイプ、③自覚症状はなく、食道炎のみがあるタイプの3種類に分けられます。(食道粘膜にただれが存在する②③を「逆流性食道炎」といいます)
(患者様とご家族のための胃食道逆流症ガイド2023より引用)
胃食道逆流症はもともと日本人には少ない病気といわれていましたが、食生活の欧米化やピロリ菌の感染がない方が増えたことによって、患者様が増えています。現在では成人の10-20%がこの病気にかかっていると推測されています。また、食道粘膜のただれが生じていない非びらん性逆流症の患者様では、食道の知覚過敏があり、わずかな胃酸の逆流でも強い自覚症状を感じる場合があります。
胃からは胃酸が分泌され、食物の消化や殺菌の作用を助けています。胃の壁(胃粘膜)は胃酸が直接触れないように粘液などで守られていて、胃自体が胃酸で消化されることはありません。しかし、食道の胃酸に対する防御機能は弱く、逆流した胃酸によって食道粘膜は容易に傷ついてしまいます。食道が長く酸にさらされると食道粘膜がただれ、逆流性食道炎が起こります。
食生活
食べ過ぎ、就寝前の食事、高脂肪職、甘いものなどの高浸透圧食、アルコール、チョコレート、コーヒー、炭酸飲料、柑橘類など
ピロリ菌感染率の低下
ピロリ菌をそのままにすると、胃の粘膜の萎縮を引き起こし胃酸の分泌が低下します。日本では衛生環境の改善や除菌治療の普及によって、ピロリ菌の感染率は大幅に低下しています。感染率の低下に伴い、胃酸の分泌が増加していると考えられます。
生活習慣
お腹の締め付け、重いものを持つ、前屈姿勢、右側臥位、肥満
食道裂孔ヘルニア
胃と食道のつなぎ目が上にせり上がる病気で、食道への逆流防止の働きが弱まり、胃酸が逆流しやすくなります。また、胃や食道の蠕動運動(食べ物や飲み物を送るはたらき)の低下も関連しています。
典型的な症状は胸やけ(みぞおちの上の焼けるようなジリジリする感じ、しみる感じなど)や呑酸(酸っぱい液体が上がってくる感じ)、胸やお腹の痛みや違和感(むかむかする感じ)です。胃液がのどや気管を刺激することで、慢性的な咳症状や喘息のような症状の原因となることもあります。その他に、のどの上部(喉頭)のポリープ、睡眠障害、歯の酸蝕症などの原因になります。
食道の強い炎症が長い間続くと、狭窄(食道が狭くなり、食べ物の通りが悪くなる)や出血(貧血や黒い便が出る)の原因となることもあります。
食道の炎症が長い間続くと、食道の粘膜(扁平上皮)が胃の粘膜(円柱上皮)に置き換わることがあり、これをバレット食道といいます。バレット食道は、食道がんの原因となることもあり注意が必要です。
重症の逆流性食道炎がある方で、特に女性の場合には膠原病(強皮症)が合併している場合があります。
胃食道逆流症は、自覚症状と上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)により診断されます。
問診
典型的な症状は胸焼けと呑酸で、患者様の自覚症状を把握することは非常に重要です。自覚症状から診断する際には、記入式の専用の問診票(Fスケール問診票など)を用いることもあります。
胃カメラ
胃カメラは必須ではありませんが、食道がんや消化性潰瘍などのほかの病気ではないことを確認するためにも、なるべく検査を受けることが望ましいです。検査を受けずに薬をもらって治療しても症状が良くならないときは、他の病気である可能性があるため、必ず内視鏡検査を受けるようにしてください。
治療には生活指導、薬物療法、外科的治療があります。
生活習慣や食生活を変えるだけでも症状が改善することがあります。特に改善効果が高いことがわかっているものは、肥満の解消(体重減少)と上半身をやや起き上がらせて寝る姿勢(頭側挙上)です。
(患者様とご家族のための胃食道逆流症ガイド2023より引用)
胃酸の分泌を抑えるお薬が有効です。自覚症状や食道炎の程度に応じて、酸分泌を抑える標準的なお薬であるプロトンポンプ阻害薬(PPI)とより強力に酸分泌を抑えることができるお薬であるカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)の2種類が使われます。また、その他に酸を中和したり、粘膜を保護するお薬や、胃の内容物の逆流を抑えるためのお薬(消化管運動改善や漢方薬)が一緒に使われることもあります。お薬を一定期間(約4-8週間)継続し、症状が改善した後にさらにお薬を継続するかどうかは、患者様ごとに判断します。最近では、患者様自身の判断で、症状が出た時点あるいは症状が出そうと感じた時点でお薬を飲み始めて、よくなったら中止するという「オンデマンド療法」という服用方法もあります。
薬物治療の効果が乏しい場合や、食道炎が重症化して、食道が狭くなったり、出血を繰り返したりするような方には、手術により逆流を防止する治療が行われることがあります。ただし侵襲の強い治療法であり、十分な内科的治療が行われた後に検討されます。
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