胃・十二指腸潰瘍
胃・十二指腸潰瘍
食物を分解する働きをもつ胃酸や消化酵素が、胃や十二指腸の壁を深く傷つけてしまうことによって起こります。粘膜が削れてしまい、穴が開きそうな状態になったのが潰瘍です。
胃潰瘍はおよそ2万人、十二指腸潰瘍はおよそ3,300人と推定されています。(厚生労働省の2017年度調査)ピロリ菌の除菌治療の普及により減少傾向ですが、その一方で、高齢化が進み、非ステロイド性抗炎症薬の痛み止めや脳心血管疾患の予防として服用する患者様が増えており、薬剤性潰瘍の割合が高まっています。
消化性潰瘍を発症すると、上腹部やみぞおちの鈍痛、吐き気、胸やけなどの症状が現れ、悪化すると潰瘍から出血し、吐血や黒色便を引き起こすことがあります。潰瘍による傷が深くなると胃や十二指腸の壁に穴があき(穿孔)、激しい痛みとともに腹膜炎を発症します。主として出血や穿孔に伴い、2017年でも2,513人の方が消化性潰瘍で亡くなられています。
消化性潰瘍の原因は、その多くがピロリ菌の感染によるもので、次に多いのが痛み止めの薬(非ステロイド性抗炎症薬)によるものです。私たちの胃のなかでは、食べたものを消化したり侵入してきた細菌を殺すために、胃酸や消化酵素を含んだ胃液が分泌されます。このとき、正常な状態では胃酸から自分の胃粘膜を保護するため粘液も同時に分泌されますが、この両者のバランスが崩れると潰瘍ができやすい状態となります。胃潰瘍は、ピロリ菌感染、非ステロイド性抗炎症薬、喫煙、ストレスなどにより胃粘膜の防御機構(胃を守る力)が弱くなり胃粘膜に傷ができると、そこから潰瘍に進んでいきます。
消化性潰瘍ができると、お腹の上やみぞおちのあたりに鈍い痛みや嘔吐、吐き気を感じることが多くみられます。潰瘍ができる部位によっても症状は異なり、胃潰瘍では食後に痛みを感じることがあります。一方、十二指腸潰瘍では夜間に痛みを感じることもあります。潰瘍から出血すると、血液が混じった黒い便が出たり、出血が大量の場合には血液をそのまま嘔吐する吐血をしたりします。その結果、出血が長引くと貧血がみられることもあります。
胃痛、腹痛などの症状から消化性潰瘍が疑われたら、まず内視鏡検査(胃カメラ)により潰瘍があるかを確認します。胃潰瘍の形状、部位、進行度を正確に把握し、治療方針を決定します。胃潰瘍と胃がんは鑑別が難しい場合もあり、病変部位から組織の一部を採取して、顕微鏡による病理診断を行って良性・悪性(がん)の確認を行うこともできます。
胃十二指腸潰瘍の基本的な治療は内服薬による治療です。胃酸の分泌を抑えたり、胃粘膜の防御機能を高める薬が用いられます。通常、薬を飲み始めてから6~8週間で潰瘍は治癒しますが、暴飲暴食を避けるなどの食事上の注意や、喫煙やアルコールを控える、ストレス解消に努めるなど、日常生活全般の改善を図ることも忘れないようにしましょう。
また、他の病気の治療のために投与される非ステロイド性抗炎症薬やアスピリンなどは、消化性潰瘍の原因になりえますので、休薬が可能なお薬は中止することも検討します。
ピロリ菌に感染していると、消化性潰瘍がいったん治っても再発しやすいこと、がんの原因になることなどが知られています。このため、ピロリ菌が見つかった場合には、適切なタイミングで除菌治療を受けることをお勧めします。除菌に成功すると潰瘍の再発が防止されます。
消化性潰瘍の合併症には穿孔(潰瘍が深くなって胃や十二指腸の壁に穴があいてしまうことで、腹膜炎を発症します)や吐血などがあります。これらはいずれも命に関わるため、早急に処置を行う必要があります。穿孔の場合は手術が必要となることが多く、一方、吐血の場合は内視鏡(胃カメラ)により止血処置ができることが多いです。
消化性潰瘍が治癒するまでに通常6~8週間かかりますので、自覚症状が改善しても一定期間薬の服用を継続する必要があります。非ステロイド性抗炎症薬やアスピリンを服用する場合はプロトンポンプ阻害薬またはP-CABの服用を必要とします。腹痛がよくなったからといって、ご自身の判断で薬をやめてしまうのは危険です。
喫煙、過度の飲酒、睡眠不足、強いストレスなどは消化性潰瘍が悪化する原因になりますので、禁煙や体調管理が大切です。不摂生をしないように、日ごろの生活にも十分に注意しましょう。
潰瘍から多量に出血すると、吐血や下血(黒色便)のほか、めまいや動悸といった貧血症状があらわれます。また、潰瘍がさらに深くなって穿孔する(胃や十二指腸に穴があく)と激しい腹痛を感じます。このような症状が出たときは緊急入院が必要なため、昼夜を問わずすぐに受診するようにしましょう。
非ステロイド性抗炎症薬の服用を続ける必要がある場合は、酸分泌抑制薬(プロトンポンプ阻害薬、P-CAB)により胃酸の分泌を抑えたり、プロスタグランジン製剤により粘膜を保護することによって潰瘍の再発を予防します。また、非ステロイド性抗炎症薬の種類をCOX-2選択的阻害薬というものに変更することも潰瘍の予防に有効といわれています。脳卒中や心筋梗塞の再発予防のために少量のアスピリンを長期間処方されている患者様で、以前に消化性潰瘍を発症したことのある人では、アスピリンによる潰瘍再発のリスクが高いといわれています。アスピリンは非ステロイド性抗炎症薬の1種であるため、このような人にもプロトンポンプ阻害薬もしくはP-CABを併用することが潰瘍の再発予防に有効とされています。
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