潰瘍性大腸炎
潰瘍性大腸炎
潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に炎症が起こり、びらんやただれ、潰瘍が発生します。通常は粘膜表層のみに炎症を起こし、典型例では病変は直腸から始まり、連続的に上方(口側)へと広がります。炎症が直腸だけの「直腸炎型」、直腸から下行結腸までの「左側大腸炎型」、大腸全体に及ぶ「全大腸炎型」に分けられます。
潰瘍性大腸炎は厚生労働省が指定難病として定める、慢性的な腸の炎症を起こす原因不明の疾患で、クローン病と並んで「炎症性腸疾患(IBD)」の1つに分類されます。
潰瘍性大腸炎の患者数は年間約1万人ペースで増加の一途を辿っていて、現在の推計患者数は25万人にも上るとされています。発症年齢のピークは20歳台の若年層で、血便をきっかけに診断されるケースが多いです(65歳以上の高齢発症も10%程度見られます)。重症の患者様は少なく90%が軽症から中等症で、再燃期と寛解期を繰り返しながら慢性の経過をたどります。
患者数も年々増加していることから、新しい研究や薬の開発が盛んに行われています。近年は、有効な治療薬が数多く出ているため、症状をコントロールできるケースが多く、患者様の生活の質(QOL)は確実に向上しています。適切な治療で症状を抑えることができれば、健康な人とほとんど変わらない生活をおくることができ、妊娠や出産も可能です。IBDは早期に適切な診断を受けることが重要とされています。疑われる症状や不安がある場合は、お気軽にご相談ください。
潰瘍性大腸炎の原因は少しずつ明らかになってきてはいるものの、未だ完全には解明されていません。遺伝や環境、腸内細菌の異常などの要因がさまざまに関わり、体内で免疫異常が起こり発症することがわかってきました。衛生状態が整った先進諸国に多い病気で、欧米型の食生活も関与していると考えられています。
特徴的な症状は頻繁に起こる腹痛や激しい下痢で、粘液を伴った血便や発熱もみられるようになります。激しい炎症が続き、腸管壁の深くまで炎症が進行すると、腸に様々な合併症(腸管合併症)が起こります。腸管合併症には、大量出血、狭窄(きょうさく:腸管の内腔が狭くなる)、穿孔(せんこう:腸に穴があく)、中毒性巨大結腸症(腸管の運動が低下し、腸内にガスや毒素が溜まり発熱などの中毒症状が現れる)などがあります。また、長期にわたって罹患していることで大腸がんの発症リスクが高まるともいわれています。腸管以外の合併症には、関節、皮膚や眼の病変、アフタ性口内炎、結節性紅斑、肝胆道系障害などがあります。
問診で、便の状態(下痢の回数や血便の頻度)、腹痛の程度、発熱などの症状について確認します。その後、便検査と血液検査により感染性腸炎などがないことを確認します。また、解熱鎮痛薬などでも炎症性腸疾患に似た腸炎が起こることがあるため、服用しているお薬について確認します。
診断は大腸内視鏡検査によって炎症の状態や範囲を調べます。内視鏡検査時に粘膜の一部を採取して病理検査(採取した組織を顕微鏡でより詳しく観察する検査)を行い、診断を行います。
「つらい」「しんどい」というイメージのある大腸内視鏡検査ですが、当院では少しでも苦痛が軽減できるように鎮静剤の使用など可能な限り苦痛を軽減した検査を行っております。お気軽にご相談ください。
※当院の大腸内視鏡検査について、詳しくは「下部消化管内視鏡検査(大腸カメラ/大腸内視鏡検査)」をご覧ください
潰瘍性大腸炎の治療の主体は薬物治療となります。炎症を抑えることで下痢、下血、腹痛などの症状を軽減できます。寛解状態を長く維持するためには、症状が治まっていても毎日の服薬を欠かさないことが重要です。
病変に直接作用して炎症を抑えるお薬で、効果を発揮するためには炎症を起こしている腸までお薬が吸収されずに十分量届くことが重要となります。同じ5-ASA製剤でも、炎症の程度や炎症の部位によって、最適な種類や必要な量は異なります。飲み薬以外にも、直腸やS状結腸など肛門に近いところの炎症では坐剤や注腸(肛門より注入)などの局所製剤も有効となります。5-ASA製剤は寛解の導入だけでなく、寛解の維持にも用いられます。安全性が高いお薬ですが、時として体質に合わず、服用を始めて数週間で発熱や下痢などのアレルギー症状が出る方(5-ASA不耐症)がおられますので、注意が必要です。
主に中等症から重症の患者様の緩解導入治療として使用します。内服や局所投与、点滴での投与があります。ステロイド剤は強力な炎症抑制作用を有する薬剤で、活動期に炎症を落ち着かせて寛解を導入する効果に優れていますが、長期間服用すると様々な副作用を起こすため、長期間の緩解維持には使用できません。骨粗鬆症や白内障などの副作用に注目が集まりますが、適切に使用すれば非常に有効なお薬です。
免疫調整剤は、ステロイド製剤を減量・中止すると病状は悪化するステロイド依存の場合に、ステロイドの減量効果と緩解維持効果が期待できるお薬です。約100人に1人の割合で全脱毛や血球減少などの重篤な副作用がありましたが、新規で服用を始める場合には、NUDT-15という遺伝子のタイプを調べることで、安全に服用できる体質かどうかを事前にある程度判断することも可能となりました。
腸へ炎症を起こす各種物質に関連したお薬で、抗TNF-α抗体製剤や抗α4β7インテグリン抗体製剤、抗IL-12/23抗体製剤、JAK阻害剤などがあります。効果が強力で、難治性の潰瘍性大腸炎の治療の中心的な役割を担います。主に専門的な高次医療機関にて使用されることが多いお薬となります。
ステロイド剤による治療で症状が改善しない場合や、ステロイド剤の減量によってすぐに再発するような場合には、血液中から免疫異常に関連する炎症細胞を取り除く血球成分除去療法を選択することもあります。通常、週1回の頻度ですが、症状が強い場合には週2回以上行われます。腕の静脈から血液を体外に循環させ、特殊な筒(血球成分除去カラム)に血液を通過させることで、炎症を起こしている血液成分を取り除きます。
内科的治療で十分な効果が得られない場合や重大な合併症には外科手術が検討されます。病変が大腸に限局する潰瘍性大腸炎では、大腸全摘出手術が適応となりますが、近年は手術の術式の進歩により、肛門機能を温存できるようになっています。小腸で便をためる回腸嚢(かいちょうのう)を造って肛門につなぐ手術が主流で、この術式によって人工肛門ではなく、ご自身の肛門から排便できるようになります。術後は健康な人とほぼ同様の生活が可能です。
潰瘍性大腸炎・クローン病は、厚生労働省の難病対策事業「特定疾患治療研究事業」の対象疾患に指定されており、所定の手続きを行い認定されると、公費助成を受けることができます。詳しくはお問合せください。
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