便秘
便秘
便秘は全人口の10〜15%程度に見られる非常にありふれた疾患です。排便が週3回未満になる排便回数の減少が便秘の症状として知られていますが、毎日排便があっても強くいきまないと出ない・硬くてなかなか出せない・少量しか出ない・残便感があるといったスムーズな排便ができない状態も広く含みます。適切な量の便を快適に排出できない状態は全て便秘であり、治療が必要となります。
特に、便秘は女性に多く、年齢を重ねるとさらに便秘でお悩みの方が増えていきます。男性は高齢になるまで比較的便秘になることが少ないのですが、70歳を超えると便秘になる頻度が高くなります。
便秘の状態は個人差があり、原因も様々です。当院では、消化器内科専門医が適切な検査を行って原因を確かめ、原因と状態、ライフスタイルに合わせたきめ細かい治療を行っています。作用機序の異なる多くの種類の薬があり、新しい作用を持った薬も登場していますので、市販薬では十分な効果を得られない場合も改善が期待できます。さらに、生活習慣の改善指導も丁寧に行って再発予防にもつなげています。
便秘症にはさまざまな原因があります。
食事の影響
食物繊維の不足: 野菜、果物、全粒穀物の不足
水分不足: 十分な水分摂取がないと便が硬くなります
生活習慣
運動不足: 運動は腸の動きを促進します
不規則な排便習慣: トイレを我慢する習慣があると便秘になりやすくなります
身体的な要因
加齢: 年齢とともに消化機能が低下します
妊娠: ホルモンの変化や子宮の圧迫により便秘が起こりやすくなります
腸の病気: 大腸がん、大腸ポリープ、腸閉塞、過敏性腸症候群(IBS)など
薬物の影響
鎮痛薬(特にオピオイド): これらの薬は腸の動きを遅くします
抗うつ薬: 一部の抗うつ薬が便秘を引き起こすことがあります
その他
ストレス: 精神的なストレスや緊張が腸の動きに影響を与えることがあります
ホルモンの変化: 甲状腺機能低下症や糖尿病などのホルモン異常を伴う病気
このように便秘に関連するものは多数あります。特に注意が必要なのは大腸がんの症状として生じている便秘です。便秘や排便の異常を認める方は、大腸内視鏡検査での詳しい検査を受けるようにしましょう。
まずは現在の排便状況について伺います。具体的には週に何回程度の排便か、便の形状や硬さはどうかなどについてです。そして、現在の服薬状況についてです。使用している下剤の種類や量についても確認します。
中には、下剤を飲んでいるつもりがなくても、同成分を含む健康茶や漢方、サプリメントなどを内服しているケースもありますし、飲んでいる下剤の種類は合っていても、飲み方が間違っているケースなどもあります。ご自身の現状を理解した上で、便秘とその対処法に対する正しい知識を身につけて頂くことが便秘治療の第一歩となります。
便秘は、大腸の疾患などによって起こる器質性、蠕動運動などの大腸の機能に問題がある機能性に分けられます。器質性は狭窄の有無によってさらに細かく分けられます。腸管の物理的(器質的)なものや状態により便の通過障害が起こる便秘症です。
当院では便秘・便がすっきり出ない、便が細いなどの症状がある場合には、まずは大腸カメラ検査(下部消化管内視鏡検査)により、重篤な器質性疾患がないかどうか、チェックすることをお勧めします。大腸がん、腹部手術後の腸管の癒着、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)などの原因があります。また女性で直腸の一部が腟に入り込んでしまう直腸瘤も、しばしばみられる原因です。器質性便秘では、まず元の病気を治すことが基本となります。
器質的な疾患がないことが確認できれば、機能性便秘症としての治療を行います。また、上記の検査と並行し、その他の全身疾患(糖尿病、甲状腺疾患、脳血管障害、パーキンソン病、自律神経疾患、膠原病など)や便秘の原因となる内服薬(抗うつ薬、抗コリン薬(ぜん息や前立腺肥大、パーキンソン病などの薬)、咳止めなど)がないかを確認します。
原因疾患がある場合はその治療を行い、薬の副作用で生じている場合は処方を見直します。それ以外の原因で生じている場合には、食事や排便習慣を含む生活習慣の改善と薬物療法によって症状を改善に導き、再発予防を視野に入れた治療を行います。
便秘薬は大きく分けると以下のものがあります。排便状況に応じて、これらを単独もしくは組み合わせて使用していきます。
下剤の種類 | 作用 | 特徴 |
---|---|---|
刺激性下剤 | 大腸自体の蠕動を刺激・促すことで、排便を促します。 | 内服し数時間で作用し、よく効く印象を受けますが、薬剤の耐性や精神的依存性があり長期間の常用にはおすすめしません。 |
浸透圧性下剤 | 腸管の中に水を引っ張ることで、便を柔らかくし排便を促します。 | 便の硬さにより、内服薬を調整することが可能。 |
上皮機能変容薬 | 腸粘膜上皮に作用して、腸管内への水の分泌を増やし、排便を促します。 | IBSなどの内臓知覚過敏を改善する効果もある一方で、一部の薬は嘔気の副作用を認める場合がある。 |
胆汁酸トランスポーター阻害薬 | 体内で作られる天然の下剤成分(胆汁酸)の、回腸末端での再吸収を阻害し、下剤効果を発揮します。 |
胆汁が分泌する前の服用、食前投与が必要。 腸の蠕動を惹起することで、腹痛を自覚することがある。 |
膨張性下剤 | 水分を吸収し膨らみ、腸を刺激して排便を促す。 | 食物繊維と似た作用による排便促進効果があるが、効果は乏しいことがある。 |
高分子重合体 | 腸管内の水分調整を行う。 | 過敏性腸症候群に対し使用することが多く、腹部の張りを軽減する効果もある。 |
このように多数の便秘薬がありますが、「便通異常症診療ガイドライン2023」にて推奨度が高い薬剤は以下の3種類とされています。
当院での便秘症治療はこの3種類を中心に調整を行います。
特に注意が必要なのは市販薬の多くに含まれている刺激性下剤は、このガイドラインでは重篤な便秘時のオンデマンド治療(頓用、頓服)としての使用が推奨され、明記されていることです。消化器専門医による適切な便秘治療を行うことをお勧めします。
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