下血・血便・黒い便
下血・血便・黒い便
便に血が混じる場合、出血の原因として口から肛門に至る全ての消化管が考えられます。一般に胃〜十二指腸までの出血は胃酸で酸化し、黒い便(黒色便、タール便)として観察され、小腸〜大腸の出血は赤黒い便(暗赤色便)〜真っ赤な鮮血便として観察されます。
患者様が感じる便の色と、医療者側が表現する便の色は必ず一致するとは限らないため、便に血が混ざっていた場合は、スマホなどで便の写真を撮ってきて頂くと、情報の共有がしやすく、大変助かります。肉眼でわかる血便や黒い便があったら、すぐに消化器科を受診してください。
また、便潜血検査の陽性が出た場合も、前がん病変の大腸ポリープの段階で切除して大腸がん予防につなげられる可能性があります。できるだけ早く内視鏡検査を受けましょう。
食道や胃、十二指腸を主体とする上部消化管出血でも、大量の出血がある場合は鮮血便となることもありますが、大量出血では吐血症状の頻度が高くなります。少量の出血の場合は、胃酸で酸化された血液が黒色便となり排泄されます。慢性便秘などがあり、便が長時間、腸の中に滞留していた場合も便は黒っぽくなる傾向にありますが、出血の場合の黒色便とは色調がやや異なることや、出血による黒色便では一般的には便がやや緩くなる傾向にあることから鑑別可能です。
血便が出た際に一番心配なのは進行大腸がんです。盲腸〜下行結腸のがんでは便に血液が混じり込むような血便となりやすく、肛門に近いS状結腸〜直腸のがんでは固形便の周りに血液が付着するような血便になることが多いです。特にS状結腸〜直腸のがんによる血便は一見すると痔による出血と区別がつきにくいため、痔と思い込んで放置され、より進行した状態になってから発見されることも少なくないため、注意が必要です。
厚生労働省が定める指定難病の1つで、血便症状で発症するのが典型的です。発症年齢のピークも20歳台と若く、若年者で繰り返す血便が見られた場合にはまずは疑うべき疾患となります。
虚血性腸炎は腸の血の巡りが悪くなり、虚血状態に陥ることによって起こる腸の炎症で、左側腹部〜左下腹部痛を伴う血便として発症するのが典型的です。糖尿病や脂質異常症などに伴う動脈硬化や血管の詰まりが原因となりやすく、中年〜高齢者に発症しやすい傾向にありますが、若くてもひどい下痢をしたあとや、下剤や経口避妊薬などの薬剤の影響を受けて発症する場合もあります。
大腸憩室は、大腸の壁の一部が小さな袋状に突出したもので、年齢とともに増加します。70歳以上になると約65%の人に憩室があると言われており、症状がない間は治療の対象となりませんが、憩室内の露出した血管が破けることによって、腹痛などを伴わずに突然真っ赤な血便が出る「憩室出血」を起こすことがあります。
一般的な感染性腸炎では下痢や腹痛が主症状ですが、O157などの腸管出血性大腸菌による食中毒や、生焼けの鶏肉を摂取した後のカンピロバクター腸炎などでは血便を伴うケースもあります。
鮮血便が見られる場合に、痔疾患も頻度の高い疾患です。痔疾患そのものは生命を脅かすものではありませんが、反対にありふれた病気であるだけに、痔だと思い込んで他の消化器疾患の発見の遅れにつながる場合が少なくないため、一度は専門の医療機関でしっかりと検査を受けることをお勧めします。
血便が見られた際には、血便の色や、血便の量、血便以外に腹痛や下痢などの症状が見られるかどうか、原因となる食事の摂取歴の有無など、まずは問診により得られた情報を整理することにより、考えられる疾患を絞り込みます。その上で、必要に応じて血液検査や胃カメラ・大腸カメラなどによる精密検査を加え、最終的に確定診断をつけます。
軽度の出血であれば外来での処置が可能ですが、大量の出血がある場合は入院での止血処置や、絶食による腸管安静、貧血に対する輸血処置などが必要になる場合もあります。
炎症反応(白血球やCRP):体内の炎症がどの程度あるのか、細菌の感染を疑うものかなど炎症の程度の評価ができます。
貧血(Hb):出血により貧血が悪化していないか、輸血が必要な状態でないか評価を行います。
X線CT(X-ray Computed Tomography)検査は、X線を身体の周りから照射し体内を透過したX線量をコンピュータで処理することによって体の輪切りの画像を得ます。胃がんや大腸がんなどの腫瘍性病変や炎症の所見がないかの評価ができます。
黒色便(タール便)の場合には、胃や十二指腸が出血している可能性があります。深い潰瘍があることも考えられるため、できるだけ早く胃内視鏡検査で胃や十二指腸の粘膜の状態を確認する必要があります。なお、検査中に疑わしい部分があったら、組織を採取して生検を行い、確定診断が可能です。また、検査中に出血部位をクリップで止血する治療もできます。
大腸の病気が疑われる場合には、大腸粘膜を直接確認するための内視鏡検査がおこなわれます。また、腫瘍性病変が発見された場合には、その一部を採取して病理検査を行い、確定診断を行うこととなります。
血便の原因は消化管に起こる出血ですが、血便を起こす疾患で最も心配されるのは胃がん、そして大腸がんです。胃がんにつながりやすい潰瘍や炎症による萎縮はピロリ菌感染が大きなリスクであり、内視鏡検査で感染の有無や粘膜の状態を調べることで早期発見と治療により完治も可能です。また罹患者数や死亡者数が増え続けている大腸がんも、定期的な内視鏡検査で早期発見できれば、生活にほとんど支障なく完治させることや大腸ポリープの治療により予防も可能です。どちらの場合もなんらかの症状がある前に、血便を起こす前に、内視鏡検査を受けることが不可欠です。定期的に健診を受けてください。
ピロリ菌は、慢性胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍の発症原因であり、胃がんリスクを上昇させます。感染したまま放置していると、胃や十二指腸が炎症を繰り返して潰瘍を起こし、出血により血便を起こす可能性があります。ピロリ菌に感染している場合、除菌治療の成功により菌が除去されると潰瘍が再発しにくくなります。除菌治療は抗生剤2種類と胃酸分泌抑制剤を1週間服用するだけですので、治療によるお身体への負担もほとんどありません。
便秘では硬い便が肛門や直腸に擦れて出血しやすくなり、特に裂肛と便秘は互いを悪化させる悪循環を起こしやすくなっています。また、便秘によって腸への負担が増えると出血を起こす大腸疾患や内痔核などの発症につながるリスクも増大させます。便秘はさまざまな理由から血便を引き起こしやすいのです。逆に便秘を解消することで、血便を起こすような疾患を予防できます。特に頑固な便秘がある場合、専門的な治療を受けて解消させることが重要です。また、便秘による強い息みは、脳血管障害や虚血性心疾患などを発症するリスクを高めると最近注目されています。便秘は加齢のせいだとか、もともとの体質だとあきらめたり、市販薬でごまかさず、気軽にご相談ください。
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